小説 タイトル:僕は一体何者だ

辞めたくても辞められない煙草に火をつけ、煙を吸い込んで吐き出しながら、一人暮らししているアパートから歩いて5分もかからぬコンビニの喫煙所の前で、今日も同じように夜空を見上げる。

 

時刻は23時30分過ぎ、23時までの飲食店でのアルバイトを終えて帰宅してい最中のこと。自転車で10分のバイト先から自宅までの距離の途中にあるコンビニに自転車を止め、こうやって煙草を1本吸うのは、大学2年生になった、十勝倍也(20歳)の習慣である。

 

「どうしてこうなったんだろう?」夜空を見上げながら、倍也が心の中で思いを巡らすのは一度や二度のことではない。勉強もスポーツも対人関係も何をやってもわりかし上手くいった、高校時代。第一志望の国立大学にも現役で合格した。念願の一人暮らしも、国立大学の学費の安さのお陰で可能になった。恵まれた環境にいる、それなのにどうして…?

 

幾度となく自問自答した人生への憂鬱感に対する回答はもう既知の事実として存在している。しかし、気を許すと幾度となく自分に訪ねてしまう。自分でもそんな自分への特性が理解できない。ただ、わかりきってることは大学の専攻内容への興味が持てない。ということにある。

 

大学では工学部に進学した。工学部に決めた主体的な理由はない。数学が得意だった。他の科目も苦手ではなかった。理系から文系に移るのは簡単だし、理系の方が就職に有利だという暗号のような噂話を幾度となく聞いていたため、高校時代は気付いたら理系クラスにいた。

 

理系の勉強は難しかったが、受験生活の今さえ頑張れば良いと割り切った。高校まで勉強は好きな方だった。昨日解けなかった問題が解けるようになったりすること、進学校だったこともあり、友達とテストの点数を競い合ったりもした。それらの何気ない日々が楽しくて、高校生活は光のような速さで大学生活へと形を変えた